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東京高等裁判所 昭和61年(行コ)21号 判決

控訴人(原告、選定当事者) 奥野万亀夫 外一名

被控訴人(被告) 高橋國雄

主文

本件控訴を棄却する。

差戻前及び後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は全部控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、市川市に対し金三二万八〇七六円及びこれに対する昭和五七年二月二五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

一  控訴人らの当審における付加主張

1  本件交際費の支出の違法性

(1) 本件二件の接待は、市川市が千葉県から補助金等を獲得することを有利に導くために行つたもので、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律で禁じられた不正手段に当り公序良俗に反するものというべく、このための本件交際費の支出は違法であり、かつ右支出は地方財政法四条一項に違反する。第一回目の接待は、補助金の交付等を決めるための現地調査のあつた当夜、料亭で行われ、第二回目の接待は、現地調査のない日、わざわざ夕刻を選んでホテルで行われた。

(2) 仮に本件二件の接待が補助金獲得と無関係に私的な目的で千葉県職員と市川市職員とが公費を使用して飲食したのであれば、本件交際費の支出は、本来の交際費使用の目的に反しており、違法である。

(3) 公金を支出するについては、支出負担行為と支出命令とが別個独立になされるべき(昭和四〇年五月二六日付自治省行政局長・財務局長、各都道府県知事宛通知)ところ、本件交際費を支出するについては、支出負担行為書と支出命令書の作成及びその決定が独立になされていないから、市川市財務規則五二条及び地方自治法(以下「法」という。)二三二条の三に違反しており、違法である。

2  被控訴人の損害賠償責任

(1) 被控訴人は、本件二件の接待を主宰し、もしくは宴席に関与して部下とともに接待し、本件交際費を支出したのであるから、不法行為者もしくは共同不法行為者として、市川市に対し本件交際費の支出について損害賠償すべき責任がある。

(2) 被控訴人は、法一五四条に基づき補助機関たる職員を指揮監督して支出負担行為である本件二件の接待を防止できたのに、故意又は過失により右指揮監督権ないし義務を行使せず、または尽さなかつたから、損害賠償責任がある。

(3) 本件交際費の各支出命令は、本件二件の接待の約二か月後になされているのであるから、被控訴人は、法一四九条五号に基づき会計を監督して、収入役等に本件交際費の全部または一部を宴会出席者の私費負担とすべき等の必要な指揮命令をする等の措置をして本件交際費の支出を防止できたのに、故意又は過失により右監督権ないし義務を行使せず、または尽さなかつたから、損害賠償責任がある。

3  よつて、控訴人らは、市川市に代位して被控訴人に対し既述(原判決事実摘示第二の一の3(二)及び6)の損害額の賠償請求をする。

二  控訴人らの当審における付加主張に対する被控訴人の答弁

1  同1(本件交際費支出の違法性)のうち、

(1) 同(1)及び(2)を否認し争う。本件二件の接待がなされるに至つた目的、事情等は、既述(原判決事実摘示第二、三、2)のとおりである。第一回目の説明は、現地視察調査後に行われたために時間的余裕がなく十分な説明ができなかつたために、第二回目の説明の機会を持ち、千葉県全体の行政を担当している多忙な県職員にその執務時間中に時間を割いてもらうことができなかつたために、結局、執務時間外に千葉県庁に近いホテル京葉で説明をすることとなつた。そして、右各説明の機会が、たまたま夕刻に至つたため、自然の成り行きとして夕食の提供を中心とする本件二件の接待がなされたものである。

(2) 同(3)を否認し争う。本件交際費を支出するについては、各支出負担行為と各支出命令とは別個に行われており、ただ支出負担行為書と支出命令書とが兼票になつているだけである。当時は、市川市財務に関する文書の様式を定める規則の一部改正(規則第一五号、昭和五四年七月一六日改正、同年同月二〇日施行)により、兼票が用いられていた。

2  同2(被控訴人の損害賠償責任)のうち

(1) 同(1)のうち、被控訴人が、本件二件の接待に関与したこと、本件交際費を支出したことを認め、その余を否認し争う。本件交際費の支出については、いずれも市川市財務規則に基づき、各支出負担行為は主管部長である企画部長が、各支出命令は主管課長である秘書課長が、それぞれ専決処分として行つた。なお、被控訴人は、市川市政の責任者として本件二件の接待に出席したから、各専決処分者が本件訴訟の被告適格者であるとの主張はしない。

(2) 同(2)及び(3)を否認し争う。本件二件の接待は、社会通念上相当なものであつたから、被控訴人が本件交際費の支出について各専決処分者に特段の指揮ないし監督等をしなかつたからといつて、控訴人ら主張の義務違背が生ずるものではない。

第三証拠の関係〈省略〉

理由

一  当裁判所は、本件交際費の支出に控訴人ら主張の違法は認められないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一〇丁裏八行目の次に行をかえ、次のとおり付加する。

「 なお、成立に争いのない甲第一〇号証、乙第六ないし第九号証、第一四、第一五号証の各一ないし三、前掲証人平野の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件二件の接待の経費である本件交際費の支出については、各支出負担行為は主管部長である企画部長が、各支出命令は主管課長である秘書課長が、それぞれ専決処分としてこれを行い(もつとも、右専決処分は、市長たる被控訴人がその権限の一部についてその補助職員である主管部長らに代理権を授与し、これを代理行使させたものにすぎず、主管部長らが権限の委任を受け、自らの権限として行使したものとは認められない。)、これらの行為は、当時の市川市財務に関する文書の様式を定める規則に則り、支出負担行為書と支出命令書とが兼票となつてはいるが別個の文書によりそれぞれ独立になされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。」

2  同一二丁表一行目の「証言、」の次に「前掲甲第四、第五号証、乙第六ないし第八号証、第一三号証、」を加え、同行目の「甲第四ないし」を「甲第六、」と改め、同二行目の「乙第六ないし第八号証」を削除し、同行目の「第一三」を「第一二」と改め、同三行目の「号証」の次に、「、前記認定事実」を加える。

3  同一三丁裏九行目の「主宰した。」を「主宰し、企画部長に命じて支出負担行為をさせ、秘書課長に命じて支出命令を出させて、本件交際費を支出した。」と改める。

4  同一四丁裏九行目から同一五丁表末行まで全部を次のとおり訂正する。

「2 右認定の事実によれば、当時市川市では本件事業遂行のため、千葉県の当局者との間で本件事業の説明の機会を設け、意見調整をする必要のあつたことが明らかであり、地方公共団体の右のような行為が、地方自治法二条二項にいう地方公共団体の事務に含まれることはいうまでもない。そしてその際、社会通念上相当と認められる範囲の接待をすることは、地方公共団体も社会的実体を有するものとして活動している以上許容されるものというべきである。

本件二回の接待におけるその目的、出席者の顔ぶれ、会場、時期、接待の内容、所要経費等をかん案すれば、右接待は、いずれも社会通念上妥当な範囲内のものと認めるのが相当であつて、控訴人ら主張のごとき公序良俗に反するものとはいえないから、本件交際費の支出につき被控訴人に裁量権の踰越又は濫用があつたとはいうことはできず、右支出が地方財政法四条一項の規定に違反するともいえない。」

5  同一五丁裏七行目の次に「三 本件交際費の支出手続に控訴人ら主張の違法のないことも前記のとおりである。」を加え、同裏八行目、九行目の全部を「右の次第で、本件交際費の支出に控訴人ら主張の違法は何ら認められない。」と改める。

二  そうだとすると、控訴人らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから棄却を免れず、結局右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、差戻前及び後の控訴審並びに上告審の訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、九三条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 時岡泰 山崎健二)

選定者目録〈省略〉

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